「――――聞きたいこと、あんだけど」



手土産だと渡されたパックのイチゴオレを頂戴しながら、天根は目の前で真剣な表情をする少年を見た。
試合中でも滅多に見せないような緊張した面持ちに、自然とこちらの肩にも力が入る。
一体何を聞かれるのか、と、神妙に聞き入っていた、その瞬間。




「男同士でヤんのって、どうすればいいと思う?」




至極真面目な顔で吐き出された言葉に、天根は無表情のまま口の中のジュースを噴出していた。







相談





「な、なななななな……ッ?!?」

鳳は真っ赤な顔で何やら「な」の字を連発し、日吉にいたっては緑茶の缶を持ち上げた姿勢で完全無比に固まっている。
真っ先に我に返ったのは、やはりと言うか何と言うか、普段から感情の起伏に乏しい天根だった。

「…………何で?」
「は?何でって、そりゃオレだってシシュンキのヤりたい盛りだし。キョーミあるし」
けろりと言う赤也に、天根はどこか遠い目でフェンスの向こうを仰いだ。



ここは、六角中の校舎の屋上。
たまたま立海・氷帝・六角三校の部活が無い日が重なり、この日は赤也がもちかけた相談ごとを聞くということで四人の意見は一致していた。
珍しく、赤也も時間通りに集合し、彼が放った爆弾が《あれ》である。

「だって、お前黒羽さんとヤんねーの?」
「………殴られた」
「ブッ……!」
言葉少なな返答に、赤也は遠慮も無しに噴出した。

「笑いごとじゃねーし。結構ショック受けた」
「そりゃそーだ!」
「そ、そんなに笑わなくてもいいんじゃ…」
ゲラゲラと腹を抱えて笑う赤也を見かね、流石に鳳が宥めに入る。

「って、そーいうお前は?鳳」
「え?俺?」
「宍戸さんと。ヤりてーなーとか思わねぇ?」
「ヤ……!!?」

思わず絶句。
首筋までを赤く染め、硬直する。
「顔、真っ赤」
「これじゃー当分先だな!」
無表情の天根の指摘に、赤也の盛大な笑い声。
居た堪れなくなって、精一杯に身体を縮めた。

「………そもそも、」

そんな会話を遮るように、日吉が何やら切り出した。
二人の関心が自分から逸れたことに安堵しつつ、内心で日吉に絶賛を送る。


「やるだの何だの、一体何をするんだ?」


「……………え?」

至極真面目な表情で放たれた台詞は、その場の空気を凍りつかせるには充分な威力を持っていた。




「………えーっと、冗談、だよな?」
「何で俺がわざわざ冗談を言わなきゃならないんだ」
そうであってくれという鳳の期待は、むっとしたような日吉の声で敢え無く裏切られる。

「…………オレ、ちょっと芥川さんに同情するわ」
「オレも……」
「まさか、ここまでなんて………」
一様に肩を落とされ、日吉はわけの分からない3人の態度に益々眉を寄せた。

「……馬鹿にしてるのか?」
「違う」
「いや、ある意味ソンケーするぜ?」
「あの分かりやすいアタックに気付いてないって、それはそれで凄いよ…」
一斉に頷く三人を他所に、話が分からず日吉は益々眉間のしわを深くした。

「あのなぁ、ヤるってのは……」
こしょこしょと、赤也は日吉の耳元で何ごとか囁く。
「――――ってワケ。わかった?」
「………………」
今度こそ、日吉は完璧に硬直する。
「――――聞かなきゃよかった…」
「そりゃ残念」
掌で顔を隠しているが、俯いているせいで耳が真っ赤になっているのがよく見える。

「で、日吉はそーいう気になったりしねぇの?」
あっけらかんと聞いた赤也の言葉に、日吉の顔が奇妙に歪んだ。
その表情を見て、赤也は無意識に眉を顰めた。
その反応は、まるで――――

「もしかして、さあ…………日吉、もう経験済み?」

「なっ………!!!!」
瞬間、沸騰したように日吉の全身が赤く染まる。
言葉にせずとも、その表情が全て物語っていた。

「ウソだろッ!若が!!?」
「意外……」
目を丸くする鳳と天根の言葉に反論する余裕もなく、頭を抱えている。

「へえ〜…結構手ェ早ぇんだなぁ」
「ちょっと、意外かも…」
「あの若が……」
「頼むから、それ以上言うな!」
懇願にも近い叫びに、赤也はニヤリと人の悪い笑みを返す。

「―――で、どうだった?」

「…………は?」

「とぼけんなよ。ヤったんだろ?芥川さんと。どうだったんだよ」
「どうだった、って……!!」
これ以上ないというくらいに、日吉の顔が真っ赤になった。

「お、覚えてるわけないだろうが!殆ど騙されるみたいに流されて、目の前真っ白になって、起きたら全身筋肉痛で……!!」



「…………え?」



咄嗟に、間の抜けた声が零れた。
日吉の言ったことが、理解できなかったわけじゃない。
しかし、そうすると――――?

「……!?」
硬直した三人を前に、日吉はようやく自らの失言を悟った。
すっくと立ち上がり、踵を返す。

「ッ――――帰る!」

彼にしては珍しく、ドカドカと足音も高く去って行った。
そんな彼を引き止めることもせずに、三人は揃って目を瞬かせる。
―――その程度には、彼らに走った衝撃は大きかった。

「…………日吉ってさぁ……」
「……ええっと、」
言い澱む赤也に、同じく口を濁す鳳。
そんな彼らを他所に、天根がぽつりと呟く。


「ヤられる方、だったんだ」


「「………………」」

凍りついた空気の中、天根がイチゴオレを啜る音だけが、間抜けに響いていた。







ただ、二年'sが仲良しならいいなーっていう……そんだけです。すいません。







TOP