「…………何だか、不釣合いだね」




ぽつりと呟いた一言は、騒がしい部室内にやけに透った。

現在、室内にいるのは先の言葉を発した彼を含め三人だけ。
誰のことを言っているのかは、すぐに分かった。

しかし、言われた本人たちはといえばこちらをきょとんと見たまま、唐突な彼の言葉の意味を理解できずに首を傾げている。


「―――って、急にどうしたんです?ぶちょー」



どこか舌っ足らずな発音で、立海唯一の二年レギュラーは再び首を捻った。
もう片方の背中に張り付いていた身体をよいしょと持ち上げ、ベンチの上で胡坐をかく。
その仕草に、隣に立つ男は軽く眉を寄せた。

「赤也。それは止めろと言っているだろう」

みっともない。
頑固一徹を絵に描いたような友人は「真田副部長はおーぼーっす」と文句を並べる後輩を睨みつけた。


ああ、やっぱり似合わない。


くすり、と苦笑混じりに笑ってしまうと、目聡い後輩が再びこちらを向く。

「だから、何なんですか?幸村ぶちょー」
「ごめんごめん」

今度こそ拗ねたような口調に、また笑ってしまう。
じぃっと睨みつけてくる後輩の目は、理由を話さなければ納得しないだろうと容易に窺わせた。


――――言ったら、怒ると思うんだけど。


そうは思ったが、それを言っても好奇心旺盛な彼は余計に話を聞きたがるだけだろう。
ならば、余計な手間は省いたほうが良い。
そう判断し、幸村は目を細めた。

視界に映る二人は、確かに同じ制服を身に着けてはいるが――――




「兄弟には、見えない」




「へ?」

またも唐突な言葉に、間の抜けた声が上がる。



「親子というには年が近く見えるし、先輩後輩というには年が離れて見える」


「おい……」


流石に今の言葉は聞き咎めたか、真田の表情がやや険しくなる。

まあ当然だろう。実際、彼らの年齢差はたった一つだ。


「友達というにもあまりにタイプが違う。となると、本当にどんな関係だろう?って思えてくるなあ、と思ってね」



「………………」



あ、傷つけちゃったかな。

急にむっつりと押し黙った友人は、傍で見ると怒っているようにしか見えない。
しかし、彼が本気で怒ったのなら、多分こちらに怒鳴ってくる。

となると、やはりこの意外に繊細な友人は少々ショックを受けてしまったようだ。


素直に謝ろうと口を開きかけたところで、視界の端に映る後輩が全く動きを見せていないことに気付く。

やはり怒ったか?とさりげなく様子を窺うと、彼は肩を震わせていた。
そしてその顔には、予想外に満面の笑みが浮かんでいる。

「……赤也?」


それに気付いたのか、真田が眉を寄せる。
不似合いだといわれたのがそんなに嬉しいのか。と、言外に非難を匂わせて。

流石にその様子に気付いたらしく、彼は弛んだ頬を慌てて引き締めると、思い切り首を振った。


「ち、違うんすよ!だって、兄弟にも親子にも先輩後輩にも友達にも見えないんでしょ?」


言って、再び弛んでくる頬は、先程以上に締まりがない。






「―――ってことは、残りは《恋人》って枠しかないじゃないっすか」







へらり、と笑いながら言われた言葉に、双方唖然と彼の後輩を見る。













だから―――――――













釣合いだなんて言わせない



(だって、俺が惚れてるのはアンタなんだから)





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